カルチャー交感ノート

今週聞いたもの、見たもの、読んだものを書いて、交換して交感するノート

「M-1グランプリ2020年 2回戦・準々決勝」

M-1グランプリの決勝進出者が発表されました。いやぁなんという不思議なメンツ。かまいたちがラストイヤーを終え、和牛が一線を退き、ミルクボーイというダークホースが大暴れした翌年である今大会、もはや有力候補など存在しない。ユウキロック(元ハリガネロック)が"忘れ物を取りに来たよう"と評した気合を見せた、ラストイヤーの三四郎や、昨年の決勝ブロック進出者ぺこぱを振り落として並び立ったのはこのなんともいびつなメンツ。錦鯉、マヂカルラブリー、おいでやすこがってどんな大会だよ!?

いやもちろん、現在の決勝進出者に不満があるわけではない(もちろん、その資格もない)が、この混沌の裏には、感染症などの影響で、3回戦の実施がなくなり次ブロックへの進出者が絞られたりしたり、一部無観客・あるいは観客を減らして実施された影響がないとは言えないだろう。ただ、そのお陰(?)で、2回戦から全ネタがインターネットで配信され、我々は自宅にいながらその大会の情熱と混沌を眺めることができるのです。いやはや、なんという素晴らしい時代だ。

しかしね、このように、若いブロックの予選からネタを眺めていくと、今までテレビの中だけで観ていたM-1グランプリとは違った表情が見えてくる。例えば、「2回戦で一番面白いコンビは、決勝で一番おもしろいコンビとは違うだろう」と言ったような確信である。初めから、決勝や準決勝進出を見据えているようなコンビなどは、おそらく序盤から本ネタなど出してこない。しかし、「まだ半分の力しか出していない」というような余裕と貫禄がある。かっこいい。対して、何が何でも上に行ってやろう、というような気合で突き進むコンビがいる。例えはよくないが、高校球児とプロ野球の選手が並び立つような、不思議な大会。何せ、これは日本で一番エントリー数が多い漫才コンテストなのである。そこに「初めから決勝進出を見据えていない」だろうコンビなども加わってくる。これはけっして「思い出受験」のような意味ではなく、準々決勝あたりを狙っていたり、通過はともかく「風穴を開けよう!」ではないけれど、インパクトを残したい、と言ったような意。いやあ、これらをひと纏めに審査して、通過者を決めねばならないのだから審査員の方々には頭が上がらない。決勝は、どうしてもナイツ塙が「言い訳」で述べていたような得点を取る技術、スポーツとしてのお笑いの側面が強くなるし、これまで自分も「そういうものだ」と思って観ていた節があった。しかし、こんなに豊かで、多様性に富んだ予選を土壌にして作られているコンテストだったのか、という気づき。

つまりね、ここまでは前フリなのだけれど(前フリだったんかい)せっかくなので、私の目から観たこの予選を記録しておきたい、という思いがある。特にお笑いというカルチャーは”評価”することが素人の”審査”みたいになってしまい、恥ずかしくて言及するのが億劫になってしまうところがある(特に私が)。しかし、自分が面白いものを面白いと言いたい、という感情はそれと両立すると思うんだよ、という「言い訳」。なのでこの場を借りて(この場なら言える)、決勝進出者と同数の9組、惜しくも決勝ラウンドに残らなかったコンビの中から、面白かったり、美しいと感じたネタを紹介していきたい。(50音順)

 

 

Aマッソ (2回戦「首都高」)

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その言葉が本心かどうかはわからないにしても、今回のM-1に関するインタビュー動画では「どれだけ多くの人に笑ってもらえるかを意識して…」と話していたAマッソ。今までの”僕らのAマッソ”から”みんなのAマッソ”になるという宣言。尖りを減らしてポップな笑いへということか…と思ったら首都高!?首都高て!ともうそこでたまらなくニコニコしてしまった。こんな笑い方が彼女たちの本意かはわからないが、もうそのね、このネタを作り、チョイスしてしまうということが愛おしくてたまらないのです。ツッコミの加納さんは、先日出版したエッセイもいたく素晴らしかったので、近々その話も書きますね。

 

蛙亭 (2回戦「包丁通ります」)

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勝手に蛙亭はコントのイメージを持っていたんだけど、漫才もとても楽しくて大好きになってしまった。コントも作るからであろうか、人間の切り取り方が美してたまらない。「こんな人いるよなぁ」というだけではなく、敢えてそのキャラクターを演じるという選択や、「その展開に持っていくんだ」という選択そのものがもう、既に美しいのだ。ネタをボケの岩倉さんが作っているというのもいい。蛙亭準々決勝のネタもとても良かったのだけど、これもあんたが作ってんのかよ。愛おしい。私、岩倉さんに恋をしているかもしれません。あと中野くんもかわいく見えてくるからウケる。

 

からし蓮根 (2回戦「居酒屋の店員」)

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去年のファイナリスト。オーソドックスな居酒屋漫才コントをズバッと決めるかっこよさたるや。流石ファイナリストだなぁと唸ってしまいました。昨年から1年間、やってきたこと、取り組んできたことが漫才の中に見える気がしてそういうのも楽しいですね。同じく昨年のファイナリスト、インディアンスと並んで敗者復活を期待しているコンビの一つです。報われて欲しい。

 

真空ジェシカ(2回戦「商店街」)

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いやあ面白い。多種多様、593組がひしめく2回戦で、個人的に一番面白かったのはこのコンビ。正直このネタを観たときは、普通に決勝、少なくとも敗者復活戦までは行くと思っていたので、落ちてしまったのが非常に残念なのですが、動画が残っているということは見れば皆が知れるということなので素晴らしい。2回戦の短い分数でオーソドックスなボケから尖ったものまで多く入れながら、伏線もしっかり決めてくる。来年決勝で見るのをとても楽しみにしています。

 

シンクロニシティ(2回戦「英会話」)

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フリーのコンビ。お笑い専業ではないフリーがゆえ、今年も解散しないで出場してくれてありがとうという気持ち。わりとシンクロニシティの新ネタのために生きているんだ、という感情があります。音楽評論家の宇野維正さんが「世界観という言葉は何も言っていない」みたいなことを著書で言っていたことがあるんだけど、果たしてそうだろうか。もしかしたら評論というものはそうなのかもしれないけれど、私の感情を表そうとすると、シンクロニシティのこの「世界観」こそが好きなのだ、という表現になってしまう。あと、2人で「世界観」みたいなコンビも割といるけど、ボケの吉岡さんのほうに「世界」があり、ツッコミの西野くんがツッコむことと戸惑うことの中間にいるようなバランスも好きです。

 

Dr.ハインリッヒ(準々決勝「チーマーの後輩」)

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 だとするならば、2人で「世界観」というならばこのコンビ。前の記事でも話したけれど私はDr.ハインリッヒのことが大好きなんだ。しかし、前の2回戦よりわかりやすい、ポップな「チーマーの後輩」という大ネタを持ってきて、この芸風でこんなにしっかりウケているのはかっこいい。準々決勝のYouTube再生回数もTOPだったようで、ワイルドカードでの突破も最有力だったのだけど、惜しくも及ばずでかなしい。しかし、本当にかっこいいラストイヤーでした。反復は美しく、愛は並列で、しかし同じところをまわっているのではないのだ、という世界の理を、このネタもしっかり踏襲しています。

 

ななまがり(2回戦「変な客」)

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ななまがりも蛙亭と同じく、漫才よりはコントのイメージがあったコンビなのだが、つまり、反復になるがコント師とは「いかに人間を切り取ってみせるか」という命を課された生き物なのでしょう。それは勿論今年プチブレイクをした「ムーシー藤田」もそうであるように。しかし漫才というフォーマットに落とし込むと、かくも愛おしくなるものか。掴みからそうであるのだが、笑いをとるためのギャップと、愛おしさへの気付かせとの距離が非常に近い。すべての人の裏には生活が宿るが、しかし表との隔たりはそれこそがおかしさなのだ。そこへの目配せよ。傑作。

 

もも(2回戦「腹立つやつ」)

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何分でも観ていたい、という気持ちになった。ももは、今大会で初めて知ったコンビの1つだったのだが、非常に惹かれるシステム漫才だった。この形を突き詰めていけば、それこそ昨年のミルクボーイのようにそのうちドーンと跳ねそう。それぞれの芸名「まもる」と「せめる」の掴みからわかりやすく秀逸で、ということは腰を据えてこれでやっていくのでしょうか。もう自分も使ってみたくなっているんだけど、まだみんなの共通言語になっていないので言えないのが惜しい。「Dragon Ash好きなんだよね〜」とかつぶやいたときに言い返されたい。

 

妖怪客ふやし(2回戦「関西人」)

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まずもう「妖怪客ふやし」というコンビ名から何なんだよ、と思ったら、これモダンタイムスなのね!「勇者ああああ」を観ている人にはお馴染みの地下芸人。しかも、モダンタイムス自身は、どうやらラストイヤーらしくてそれも面白い。何やってんだよ。なんでユニットコンビだけで出てんねん。好みは分かれると思うけど、というかただただくだらないけど、あー笑った。涙出た。コメント欄に書いてあったんだけど、この中に関西人は一人もいないらしいです。なんでやねん!

 

 

チャイルドロック